2014年にこまつ座で上演されたプロダクション版の再演として、3年振りに『きらめく星座』が紀伊國屋サザンシアターにて幕を上げた。
前回の公演は上演中に息子・正一役の田代万里生が怪我で途中降板というトラブルがありつつも、主人公・ふじ役の秋山菜津子が本作品で読売演劇大賞最優秀女優賞を獲得したりと評判の良い公演だった。
筆者も生でこの作品を観たのは前回の公演が初めてであり、甚く感動して2度鑑賞した程で2度目に観に行った公演が、万里生さんの最終公演だった為とても印象に残っている。
今回はスケジュールがなかなか合わずに観劇を一度は断念したものの、やはり見逃したくないとどうにか都合をつけてサザンシアターへとようやく足を運んだ。
今回の公演はこまつ座の第120回記念公演として催されている。
ロビーでは台本が仕上がらずに公演中止になった幻の作品『パズル』のポスターや書き途中の原稿の一部まで展示されており、井上ひさしファンには堪らないひとときを過ごすことが出来、大満足だ。
“誰にでも一冊は本を書ける”と言った内容のナンバーから始まる幻の作品は出だしだけでも非常に興味深い内容。原稿の複製を120万円で今だけ購入出来ると書かれていたが、どなたか購入された方はいるのだろうか?かなり気になる。。。笑
話を『きらめく星座』に戻そう。
昭和15年の浅草のレコード店・オデオン堂を舞台に、当時の歌謡曲を織り交ぜながら太平洋戦争前夜の庶民家族の悲喜こもごもを描くこの作品は、井上ひさし作品の中でも随一の傑作であると言えよう。
こまつ座が、井上ひさしが好きならばこの作品を必ず好きな作品の上位に挙げてしまうに違いない。
レコード店の一家らしく音楽とともに幸せな毎日を過ごし、決して戦争を良いとは思っていない家族が戦争に翻弄され散り散りになっていく様がまざまざと描かれるものの、暗く重たい作品というわけではなく、むしろ明るく笑いに満ちた作品となっている。
劇中にその時代に流行った歌謡曲がそのまま使われているのが、この作品の大きなポイントだ。
「月光値千金」「一杯のコーヒーから」「青空」など当時の音楽、歌詞のまま劇中で歌われる。ミュージカルのように歌詞が直接的なセリフになっているわけではなく、まさにその当時の人たちになくてはならない生活の一部として必然的に歌われるのである。これは音楽劇というジャンルとしても稀代の傑作と言えよう。音楽は嘘をつくことなく、作られた当時の日本をそのまま我々に届けてくれるのだ。
また作品が傑作と言える理由の一つが、登場人物の広告文案家・竹田のセリフにある。
戦争が近づく足音が大きく鳴り響いている頃、一家の娘・みさをは妊娠するもこの先の日本のことを思うと子どもは生まれてくるべきでないと悩む。そこで竹田は「人間」という商品の広告を宣伝する文案を考えたとしたら…と、みさをに「人間」のキャッチコピーを伝える。そのキャッチコピーは宮沢賢治の思想を下敷きに、宇宙における人間の奇跡を説くものだった。
このシーンはこの物語における大きなハイライトであり、井上ひさし作品のハイライトと言っても過言ではないほどの素晴らしいシーンなのである。
そのキャッチコピーを私の拙い文章の中で要約することなんぞ出来兼ねるのはもちろん、まるまる載せることさえ失礼だと思えるので、興味を持った方は是非劇場へ足を運ぶか、戯曲を読んでいただきたい。
また、同じ竹田のセリフで今回もう一つ印象に残ったものがある。
「星の動きは誰が見ても一緒です。そういう堂々たる論理で国の経営を行ってもらえるなら、もっとずっと日本が好きになれるんですがね。」
これはいつの世においても無くなることのない嘆きなのだろうか?
そうして、一見平凡に暮らしている我々もこの作品の登場人物と同様に、少しづつ戦争に翻弄され巻き込まれている渦中なのだろうか?
初演された頃には二度とあんな過ちを繰り返してはいけないのだと懐かしさを含めて観ることが出来たであろう本作は、今の日本においては未来の物語なのでは…と恐怖を感じる作品になってしまった。
どんなことでも間に合わないことなどない。
一人でも多くの人にこの作品を観てもらいたい。大いに笑い、泣き、そして今の日本を考えて欲しい。
新宿・紀伊國屋サザンシアターにて11月23日まで
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