スキップしてメイン コンテンツに移動

シネマ歌舞伎 『東海道中膝栗毛〈やじきた〉』



2016年の8月に歌舞伎座にて初演された、七代目市川染五郎と四代目市川猿之助バージョンの"やじきた"がシネマ歌舞伎になって帰って来た。

かの有名な十返舎一九の『東海道中膝栗毛』を大胆に脚色し、弥次さん喜多さんがお伊勢参りの道中になんとラスベガスにまで行ってしまうという破天荒っぷり。

2016年夏当時の芸能ゴシップや時事問題、歌舞伎界事情を面白おかしく練り込み、歌舞伎初心者は目の前で起こることを単純に楽しめ、玄人は散りばめられた小ネタを拾い集めて楽しめるという多重構造に仕上げられたエンターテイメント娯楽作品に仕上がっている。

このような作品を嫌う歌舞伎ファンや演劇ファンは多いかも知れない。しかし、歌舞伎というのは本来ワイドショーの側面が大きいはずなのである。上演されたその時にしかわからない面白さを備えたこの"やじきた"のような作品こそが歌舞伎の醍醐味、演劇の醍醐味なのだ。これからもこんな作品をたくさん作り続けて欲しい。

当代歌舞伎座初の2人宙乗りだとか、チケ難話題作だとか色々と事情がありシネマ歌舞伎化されたのだろうが、この作品に関しては生で観劇した2016年8月当時に観るのが一番美味しく、それ以降は鮮度が落ちていくばかりのように思える。

もちろん、様々な作品を日本各地で観られるシネマ歌舞伎の試みには大賛成なのだが、"やじきた"のような作品を上映するならば歌舞伎座での上演後出来るだけ早く上映しなければ、お客様の前に冷えた料理どころではなく、腐った料理を出すのと同じである。

当代猿之助と染五郎コンビ、そして未来の猿之助と染五郎のコンビの競演という貴重な映像作品であることには違いないので、一見の価値あり。

〈シネマ歌舞伎 制作スタッフ〉
監督:浜本正機
撮影監督:鈴木達夫
サウンドデザイン:瀬川徹夫
音楽:富貴晴美

原作:十返舎一九
構成:杉原邦生
脚本:戸部和久
脚本・演出:市川猿之助

上演月:2016(平成28)年8月上演
劇場:歌舞伎座
シネマ歌舞伎公開日:2017(平成29)年6月3日
上映時間:90分

配役

弥次郎兵衛:市川 染五郎
喜多八:市川 猿之助
盗賊白井髭左衛門:市川 右近
天照大神:市川 笑也
十六夜:中村 壱太郎
茶屋女お稲実は女盗賊三ツ大お新:坂東 新悟
五日月屋番頭藤六:大谷 廣太郎
信夫の若君 伊月梵太郎:松本 金太郎
供侍 伍代政之助:市川 團子
読売屋文春:市川 弘太郎
老船頭寿吉:市川 寿猿
大家七郎兵衛:松本 錦吾
役者/女札親師毬夜:市川 春猿
石油王夫人麗紅花:市川 笑三郎
役者/用人山田重右衛門:市川 猿弥
闇金利太郎:片岡 亀蔵
アラブの石油王亜刺比亜太:市川 門之助
五日月屋女房お綺羅:市川 高麗蔵
大家女房お米:坂東 竹三郎
劇場支配人出飛人/奉行大岡伊勢守忠相:中村 獅童

コメント

このブログの人気の投稿

【日本語歌詞】Waving Through a Window 手を振る僕 〜ミュージカル Dear Evan Hansen より〜

日本時間の明日6月12日、第71回トニー賞の授賞式が開催されますね! トニー賞は簡単に言えば”ミュージカル界のアカデミー賞” 世界中のミュージカルファンが、年に一度最も楽しみにしているに違いないイベントです。 日本でもWOWOWで午前8:00~生中継されるので楽しみです。 今回の僕の注目作品は Dear Evan Hansen ディア・エヴァン・ハンセン です。なんと作品賞をはじめ、9部門でノミネートされています。 ミュージカル作品賞ミュージカル主演男優賞: ベン・プラット ミュージカル助演男優賞: マイク・フェスト ミュージカル助演女優賞: レイチェル・ベイ・ジョーンズ ミュージカル脚本賞: スティーヴン・レヴェンソン オリジナル楽曲賞: ベンジ・パセック 、 ジャスティン・ポール ミュージカル照明デザイン賞: ジャフィー・ウェイドマン ミュージカル演出賞: マイケル・グライフ 編曲賞: アレックス・ラカモワール 作品の中で歌われる楽曲はどれも素晴らしいのですが 代表曲と言っても過言でないほどの名曲が ”Waving Through a Window” あまりにも好きすぎて、 日本語歌詞を作ってしまいました 。 ちゃんと日本語で歌えるようになっていますので、是非歌ってみてください! ライブやYoutubeなどで歌ってくれる方がいらっしゃいましたら僕までご一報ください☆彡 それでは主演男優賞にもノミネートされている ベン・プラットの歌唱動画 と共に日本語歌詞をお楽しみください! Waving Through a Window 手を振る僕 〜ミュージカル Dear Evan Hansen より〜 作曲・作詞:Benj Pasek and Justin Paul 日本語訳詞:こっぺりあ 踏み出さなきゃいい 恥かかずに済む バカにされずに 後ろ指もさされず 生きていくのさ 心を抑えるんだ 言うことなんか 何もないはずさ 逃げろ 栄光の光から 逃げろ 遠くへ そうだろ? それがいいよ 窓の外から眺めて 飛び込める日を夢見て ガラス叩いて 手を振る僕の 声は誰かに届くの? 待ち続ける誰かの声 行き交

浅利慶太プロデュース公演 ミュージカル『夢から醒めた夢』

あの『夢から醒めた夢』が再び生まれ変わった。 30年前の1987年にニッセイ名作劇場のファミリーミュージカルとして生まれた『夢から醒めた夢』は、その後劇団四季のオリジナルミュージカルの代表作としてこれまで上演されて来た。 2000年には演出、衣裳や振付などが大胆に変更され、1700回を超える上演を重ねてきた日本オリジナルのミュージカルとしては異例の人気を持つ作品だ。 僕自身も子供の頃に観劇し、その後在団中には上演に携わり、大切な作品として胸に刻まれている。 そんな『夢から醒めた夢』が2013年の公演を最後に上演されずにいた。 浅利慶太氏が劇団四季を去り、もう上演はされないのか・・・と残念に思っていたところに、4年ぶりの上演が浅利演出事務所から発表されたので上演を楽しみにしていたのだが、 仕事の都合上チケットをぎりぎりまで取らずにいたところ、なんと初日を前にして全日程完売になってしまった。 劇団四季外での上演にも関わらず、ここまでチケットを売り上げるというのは、やはりこの作品の持つ魅力が大きい証拠であろう。 そんな状況の中、僕の行ける日程がたったの1日しかないことが判明し前日に滑り込みで”おけぴ”にてチケット譲渡を見つけ、無事観に行くことが出来た。 夢の配達人に導かれ、不思議なことが大好きな少女ピコは、交通事故で死んでしまった少女マコと一日だけ入れ替わる。 死んだ者が向かう”光の国”へ向かう前に立ち寄る霊界空港で起こったある騒動やマコとお母さんの関係を通し、ピコはやさしさ、命の大切さを知っていく・・・ 今回の上演から演出が自由劇場仕様に変更となった。 また、衣裳やカラオケは旧演出のものになったりとこれまでの公演を踏まえた現時点までの総括版とも言える演出だ。 直近の上演まで行われていた、開演前のロビーパフォーマンスや遊園地のシーンやカーテンコールでのショー的要素をすべて無くし、劇団四季の加藤敬二色を排除した模様。 その代わりに芝居に重きを置いたシンプルな舞台装置や照明になっており、再び作品と勝負した浅利慶太の本気が垣間見えた。 舞台上に出ている初めて出演する若手俳優も、これまでも作品に出演してきた年老いてしまったベテラン俳優たちもみんな完璧ではなく、今回の上演に向けて作品と対峙し”新しく創り上げた”という印象。 浅利先生が「今

こまつ座『きらめく星座』

2014年にこまつ座で上演されたプロダクション版の再演として、3年振りに『きらめく星座』が紀伊國屋サザンシアターにて幕を上げた。 前回の公演は上演中に息子・正一役の田代万里生が怪我で途中降板というトラブルがありつつも、主人公・ふじ役の秋山菜津子が本作品で読売演劇大賞最優秀女優賞を獲得したりと評判の良い公演だった。 筆者も生でこの作品を観たのは前回の公演が初めてであり、甚く感動して2度鑑賞した程で2度目に観に行った公演が、万里生さんの最終公演だった為とても印象に残っている。 今回はスケジュールがなかなか合わずに観劇を一度は断念したものの、やはり見逃したくないとどうにか都合をつけてサザンシアターへとようやく足を運んだ。 今回の公演はこまつ座の第120回記念公演として催されている。 ロビーでは台本が仕上がらずに公演中止になった幻の作品『パズル』のポスターや書き途中の原稿の一部まで展示されており、井上ひさしファンには堪らないひとときを過ごすことが出来、大満足だ。 “誰にでも一冊は本を書ける”と言った内容のナンバーから始まる幻の作品は出だしだけでも非常に興味深い内容。原稿の複製を120万円で今だけ購入出来ると書かれていたが、どなたか購入された方はいるのだろうか?かなり気になる。。。笑 話を『きらめく星座』に戻そう。 昭和15年の浅草のレコード店・オデオン堂を舞台に、当時の歌謡曲を織り交ぜながら太平洋戦争前夜の庶民家族の悲喜こもごもを描くこの作品は、井上ひさし作品の中でも随一の傑作であると言えよう。 こまつ座が、井上ひさしが好きならばこの作品を必ず好きな作品の上位に挙げてしまうに違いない。 レコード店の一家らしく音楽とともに幸せな毎日を過ごし、決して戦争を良いとは思っていない家族が戦争に翻弄され散り散りになっていく様がまざまざと描かれるものの、暗く重たい作品というわけではなく、むしろ明るく笑いに満ちた作品となっている。 劇中にその時代に流行った歌謡曲がそのまま使われているのが、この作品の大きなポイントだ。 「月光値千金」「一杯のコーヒーから」「青空」など当時の音楽、歌詞のまま劇中で歌われる。ミュージカルのように歌詞が直接的なセリフになっているわけではなく、まさにその当時の人たちになくてはならない生活の一部として必然的に歌われるのである。これは音楽劇とい